クリオコナイト粒 ~ 氷河マリモ



ヒマラヤの氷河のクリオコナイト粒

クリオコナイト粒とは,氷河の氷の上でみられる黒い団子のようなものです.普通は,氷河の氷の表面や,クリオコナイトホールと呼ばれる水たまりの底にたまっています.粒の大きさはだいたい直径 0.2 - 2.0 mm程度です.さわると柔らかく,指で簡単につぶせます.いろいろと調べてみると,クリオコナイト粒にはシアノバクテリアやバクテリアなどの生きている微生物がたくさん含まれていることがわかりした.実は,このクリオコナイト粒は,氷河に生息する雪氷生物によってつくられた,氷河マリモであることがわかったのです.さらに,このクリオコナイト粒は,氷河表面のアルベドを下げて氷河の融解を促進していることもわかってきました.それでは,そのクリオコナイト粒の正体をくわしくご紹介しましょう.

上の写真は,クリオコナイト粒の一粒の断面を顕微鏡で見たものです.中に茶色や透明の砂粒(鉱物粒子)がみえます.またそれを取り囲むように,黒っぽいものがあることがわかります.この黒っぽいものは有機物です.また,よく見ると粒のなかにまた小さい粒があることも確認できます.これは,この粒が成長していることを示す年輪のようなものです.

上の写真は,蛍光顕微鏡という特別な顕微鏡でクリオコナイト粒の一つの表面を観察したものです.糸のようなもので赤く見えているものは,シアノバクテリアと呼ばれる微生物です.シアノバクテリアは,池や沼で繁殖する藻のようなもので,太陽の光を浴びて光合成をして育ちます.この写真をみるとクリオコナイト粒の表面を糸状のシアノバクテリアがびっしりとからまりながら覆っていることがわかります.このシアノバクテリアがこの粒を形作っているのです.藻がつくるボールというのは,北海道でよくしられるマリモをおもいだします.このクリオコナイト粒は,北海道のマリモよりも大きさも小さく,色も緑でなく黒で,だいぶ違ったようにみえますが,氷河の上で育つマリモなのです.

この写真は,クリオコナイト粒のひとつを半分にきって,その断面を蛍光顕微鏡で観察した物です.赤く光るシアノバクテリアは,粒の表面付近にしかいないことがわかります.粒の内部には光がとどかないので,光合成をするシアノバクテリアは表面にしかいないのです.内部には,鉱物粒子や昔,繁殖して死んでしまったシアノバクテリアの遺体などが詰まっているのです.

さらに電子顕微鏡で観察してみると,もっと小さくて丸い形をしたバクテリアをみることができます.左の写真は糸状のシアノバクテリアの表面にたくさんのバクテリアがいることを示しています.右の写真は,バクテリアが粘液に覆われていることがわかります.バクテリアはクリオコナイト粒の内部で,シアノバクテリアの遺体などの有機物を分解しているのです.

この写真は糸状のシアノバクテリアについているバクテリアを観察した物です.左は普通の透過顕微鏡,右は同じシアノバクテリアを蛍光顕微鏡でみたものです.右の写真で青く光っているのがバクテリアです.シアノバクテリアのまわりに小さな青いバクテリアがたくさんついていることがわかります.バクテリアがシアノバクテリアのつくる有機物を分解しているのです.

以上の観察結果から,クリオコナイト粒の一つを模式的に書いたものが上のものです.緑色の糸状のものがシアノバクテリア,赤いのがバクテリア,それ以外の角張った物が鉱物粒子です.クリオコナイト粒は,糸状のシアノバクテリアが鉱物粒子などを取り込みながら,成長していくのです.


参考論文

  • Takeuchi, N., Kohshima, S., and Seko, K. (2001): Structure, formation, darkening process of albedo reducing material (cryoconite) on a Himalayan glacier: a granular algal mat growing on the glacier. Arctic, Antarctic, and Alpine Research, 33, 115-122. [Abstract]
  • Takeuchi, N., Kohshima, S., Goto-Azuma, K., and Korner, R. M. (2001): Biological characteristics of dark colored material (cryoconite) on Canadian_Arctic glaciers (Devon and Penny ice cap), Proceeding of the Memoirs of National Institute of Polar Research, Special Issue, 54, 495-505. [Abstract]
  • Takeuchi, N. (2002): Optical characteristics of cryoconite (surface dust) on glaciers: the relationship between light absorbency and the property of organic matter contained in the cryoconite. Annals of Glaciology, 34, 409-414. [Abstract]


[Glacial Biology] [Home]