地球環境問題


近年騒がれるようになった地球環境問題には,さまざま種類の問題を含んでいます.地球温暖化,オゾンホール,水問題,生物多様性の減少,グローバル経済と文化の消失などです.我々の研究対象の氷河は,とくに地球温暖化との関係で,注目を浴びるようになりました.地球温暖化が原因で氷河が解けるかもしれない,と考えられるからです,事実,現在世界各地で,氷河の縮小が観測されています.温暖化との因果関係はまだ議論されているところですが,氷河の中でもとくに山岳氷河が近年縮小していることは事実です.氷河の融解は,海面の上昇や水資源の変化,氷河湖決壊の危険などをまねくおそれがあり,氷河の研究は地球環境問題として大切です.また,氷河研究からは,氷河に残されている過去数万年の記録をアイスコアとして掘り出し,地球環境変動の歴史を知ることもできます.今地球はどういう状態なのか,過去はどうだったのか,これからどうなっていくのか,これらの問題を明らかにする上で,氷河の研究はとても重要です.

しかしながら,地球環境問題の本質は,単に自然環境だけの問題ではなく,人間自身の行動,文化,社会の問題を含んでいます.地球環境問題は,地球上に人間が存在し人間が問題意識をもつからこそ存在する問題です.京都にある総合地球環境学研究所では,いろいろな学問分野の研究者があつまって,自然と人間の両側面から地球環境問題の本質を明らかにしようという数多くの研究プロジェクトがおこなわれています.我々も氷河を研究する立場から,いくつかのプロジェクトに参加し,歴史や経済,文化人類学もふくむ,総合的な地球環境問題の議論に参加しています.たとえば,2002-06の間で行われた「オアシスプロジェクト」では,中国西部の乾燥域での現在の砂漠化の原因を探るともに,人の水利用と水資源の自然変動の歴史を明らかにする研究を行いました.氷河調査によって地域の水資源の氷河の役割を明らかにし,アイスコア研究はこの地域の自然変動を明らかにしました.プロジェクトではさらに古文書を読む歴史研究者や水利用の実体に迫る文化人類学者などとともに,この地域で起きている水問題の実体に迫りました.

さて,いままで数多く行われたアイスコアの研究は,過去数十万年間,地球の気候が激しく変化してきたことを我々に教えてくれました.いわゆる氷期と間氷期の変動です.さらに,現在は毎年の平均気温はほぼ安定していますが,今から2万年前の氷期には年平均気温が数十年単位で激しく変化していたことがわかりました.今,我々は地球が温暖化することに恐怖を感じていますが,実はそれくらいの地球環境の変動は昔は当たり前だったのです.人間はそもそも,熱帯から極地まであらゆるところで生活することができ,生物の中でも最も環境の変化に対して適応的であるとみることができます.それなのになぜ我々は環境の変化に恐怖をいだくのでしょうか?人間には安定を求め,変化を恐れるという性質があるようです.地球環境問題の根の部分には,人間の将来に対する不安をもつというこの根本的性質と関係があるように思えます.この根本的性質とはいったいなんなのでしょうか?自然科学はもとより,歴史,哲学,心理,医学など,あらゆる手段をつかってこの問題に迫ろうと思います.


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