研究方法の紹介


 雪氷生物,地球環境の理解という研究目的のために,あらゆる手段を用います.物理的な測定から,化学分析,生物学的な分析をおこない,また分析対象の大きさも,衛星画像のようなマクロスケールから,顕微鏡をつかったミクロスケールまで扱います.研究目的のために常に新しい手段の開拓につとめています.


氷河・雪渓フィールド調査

 研究の基本は,フィールドワークです.地球上で起きている現象を,野外に出て自分の目で確かめることを重視します.研究対象が雪氷となるため,フィールドは基本的に雪や氷がある高山や極地です.国内では,おもに富山県の立山,滋賀県の伊吹山などです.国外では,ヒマラヤや天山山脈などのアジアの氷河から,アラスカ,北極,パタゴニアなど,世界各地の氷河,積雪です.

顕微鏡分析(透過・蛍光・電子)

 雪渓や氷河で採取した雪や氷は,解かしてから顕微鏡で観察して,その中に含まれている不純物を分析します.雪氷藻類やバクテリアなどの微生物,風成塵などの鉱物粒子,周囲の植生からの花粉など,さまざまなものをみることができます.顕微鏡を用いてこれらのものがどれくらい氷河の上にいるのか,またはあるのかを定量します.蛍光顕微鏡を用いると特定の微生物だけを光らせてみることができます.電子顕微鏡をつかうと,バクテリアなど小さな微生物もよりはっきりとみることができます.

有機物分析

 氷河上から採取した雪や氷には,雪氷生物由来の有機物が含まれています.これらの不純物量の定量やそこに含まれている有機物量を定量することによって,氷河上の不純物の特性を知ることができます.不純物量や有機物量は世界の氷河によって,大きく異なることがわかってきました.その理由はまだよくわかりません.

腐植物質分析

 氷河上の有機物は多くの場合,黒い色をしています.これは腐植物質という有機物が含まれるためということがわかってきました.有機物の色は氷河表面のアルベドを変え,氷河の融解に大きく影響するため,この腐植物質の性質を理解することは重要です.腐植物質の定量,光学的解析をおこなって,氷河上での腐植物質の形成過程を明らかにします.

薄片観察

 氷河の消耗域の表面の不純物は,直径1ミリほどの泥団子のような集合体を作っています.これはクリオコナイト粒といい,シアノバクテリアという微生物によって形成されることがわかっています.この粒の断面構造は,樹脂で包埋してから研磨して薄片を作ることによって観察することができます.薄片にしてみると,粒の内部には層構造をはじめいろいろな構造があることがわかります.このようなことから,クリオコナイト粒の形成過程を明らかにすることができます.

雪氷面反射スペクトル

 雪氷生物がどれくらい氷河のアルベドに影響しているのかを定量するために,雪氷表面を光学的に反射スペクトルを測定します.スペクトルメータという機械をつかって,可視から近赤外にかけて各波長の反射率を測定し,反射スペクトル曲線を求めます.雪の粒径や形,氷の微構造,繁殖している生物の種類,有機物や鉱物粒子の特性によって,雪氷面の反射スペクトルも様々です.

リモートセンシング

 野外調査で歩ける範囲は限られていますが,地球全体の雪氷現象の理解のためには,衛星画像の解析がかかせません.雪氷上で大量に繁殖する雪氷生物は,衛星画像からでもみることができます.衛星画像の分析によって,どこでどのくらい雪氷生物が繁殖しているのか,広範囲にあきらかにします.

雪氷中の溶存化学成分分析

 純水に近い雪氷中にもわずかに様々な化学成分が含まれています.海塩成分や人為起源の硫酸や硝酸,ダストから供給される成分などです.これらの成分を分析することによって,大気中の物質の循環過程を把握することができます.さらにある種の成分は,雪氷微生物にも重要な役割をもっています.雪氷中の化学成分を分析して,物質循環と雪氷中の微生物過程の理解を試みています.

安定同位体比

 元素の安定同位体比は,物質循環を明らかにするための強力な手法で,現在地球科学や生態学など様々な分野に応用されています.雪氷学では,一般的にOやHの安定同位体比をもちいて,水循環の理解や気温復元などが行われています.雪氷生物学では,さらに雪氷生物に由来する有機物のCやNの安定同位体比,さらにSr, Pb, Nd安定同位体比の分析によって,氷河上の物質循環,生物の役割を明らかにします.

(水安定同位体アナライザー LGR DLT-100)

DNA分析

 微生物の種の同定は,現在DNA分析によって行われることが一般的です.雪氷微生物をDNA分析によって同定すると,世界各地の氷河に共通する種や,地域に限定される種などがいることがわかってきました.環境と微生物種との関係がわかれば,アイスコア研究に応用することもできます.さらに,雪氷微生物のDNAから,雪氷圏の変動史,微生物の進化のプロセスの理解ができる可能性もあります.雪氷微生物のDNA研究は,様々な可能性を持っています.

 

アイスコア分析

 氷河上の生物は,氷期の頃にはどんなものだったのか,そしてこれから地球温暖化のなかで,どうなっていくのか?雪氷微生物群集の変化を時間軸で明らかにするために,アイスコアの分析という方法があります.毎年,氷河上で繁殖する微生物は年輪のように氷河の中に取り込まれます.それをアイスコアとして掘り出して,過去の微生物群集を復元することができます.氷河の中には過去数千年間の微生物が冷凍保存されているのです.


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